本格的な夏に向かう7月は、大きな蓮の花が池を覆います。植物としても生命力が強く、仏教やヒンドゥー教、密教では神仏が座したり供物に使われるなど、古代から聖なる象徴としても、人々の生活に密接に関わってきた花です。開花のときに、「ポン」と音がするという話を聞いて、早起きして是非一度聞いてみたいと思っていましたが、それはどうも『俗説』らしいですね。こんなところも、花の姿になにやら神秘的な佇まいを感じさせる源泉なのかもしれません。
◆ 蓮の開花を朝日の中に見て
この季節に日本各地で池に開花する蓮は、水面に花を浮かべるように咲く睡蓮とは別の種です。睡蓮はエジプトの原産、熱帯から亜熱帯にかけて咲く熱帯植物ですが、こちらも、蓮と同じく古代エジプトの時代から神聖な花とされていたそうです。
蓮は、背が高い植物で1m程度になることから、茎がストロー状になっていて空気と水を通しています。茎の先にある葉が特徴的で、葉柄が円形の葉の中心についているので葉の中心に水泡がたまるのですが、葉の表面に撥水性があり、それが見事なまんまるな水晶のような朝露を作り出します。この姿が、仏教では、世間の中にあっても汚されない純粋無垢な心の有り様を表しているとして、無執着の心のたとえともされているそうです。初夏、早朝の散歩で、蓮が次々咲いていくのを眺めながら朝露に触れたりすると、心落ち着く清々しさを感じるのは、そんな伝説でもあり科学でもあることが空気感として微妙に伝わってくるからではないでしょうか。花の色も、ピンク、白、青など、清浄な色が並び、葉の緑とのコントラストによって、はるか先の世界を示してくれているかのようです。
◆ 蓮の花を暮らしの中に
蓮は、見て愛でるだけでなく、根から、茎、葉、花にいたるまで、さまざまな薬効が信じられ、あますところなく使われてきました。インドで古代から伝わる健康法であり医学でもある『アーユルヴェーダ』では、蓮は鎮静、冷の質をもつものとして珍重されています。特にその花の香りは、ほのかに甘く少しの酸味もあり、早朝に使うとこの季節特有のジメジメした感触をきりっと引き締め、それでいて気持ちを落ち着かせてくれます。精油もありますが、蓮、ロータスの香りはお線香やキャンドル、オーデコロンなどで使われるのが一般的です。食用としても、レンコンだけでなく、実や茎を食べたり、花や芽をお茶にして飲むこともできます。台湾やベトナムの食材店で簡単に入手できるでしょう。
蓮の花の形状そのものに癒しの効果があるという説もあり、生の花を飾るのはもちろん、蓮の花の写真や絵を部屋に置くのも、この季節ならではの設えとして、おすすめです。
◆ 蓮の生命力と癒し
蓮は、非常に生命力が強く、日本の千葉・検見川で1950年代に発掘調査により発見された蓮の実が、およそ2000年以上前の弥生時代頃のものだったのですが、発芽をし、見事に開花した事でも知られます。これは米国ライフ誌に「世界最古の花・生命の復活」として掲載され、この研究をされた博士の姓を採って「大賀ハス」と命名され、その後世界中に根分けされ今も各地で花を咲かせています。これは東京大学で研究成果として紹介され、また今では『蓮華』という大賀ハスのオーデコロンも大学内で売られています。古代の息吹を現代に伝える科学との融合が、ここにも見られるような気がします。