日本各地も南から順に梅雨入りの6月、街角で目につくのは、紫陽花の花ではないでしょうか。日本原産のこの花は、季節を知らせてくれる代表的な花といえるでしょう。一方ヨーロッパに目を転じると、この時期はラベンダーの開花が始まっています。気候・風土が違えど、同じ紫に彩られる6月の不思議を感じずにはいられません。夏になる少し前の不安定なこの季節には、少し青みがかった紫の色が、私たちを癒してくれるのかもしれませんね。
◆ 紫にまつわるお話
赤と青の中間の色である紫色は、世界のいたるところで『高貴な色』とされ最上位に位置されることが多かったようです。
日本では聖徳太子の冠位十二階は最上位、大徳が濃紫、次の小徳が薄紫と考証されていますし、ローマ帝国時代にはローマ皇帝が纏った色ともされています。
紫は神秘性や感覚的なものを表すので、スイスの心理学者ルッシャーによれば、情緒が不安定なときに選ばれる、とも言われています。不順な気候で体調も崩しがちなこの季節に、紫陽花やラベンダーの紫色を目にすることで、心やからだの安定をもたらしてくれることでしょう。季節に合わせてこうした色の花が次々開くのは、自然の優れた合理性なのかもしれませんね。
◆ 紫陽花のいろいろ
紫陽花の花は、本来の花は中心のひっそり見える部分のみで、花のように見えているところは『装飾花』と呼ばれるガクなのです。日本原産のガクアジサイが改良され、今では球状にこんもりさくセイヨウアジサイが多く見られますが、何株もまとまって咲いているまあるい紫陽花を見ると自然と顔がほころんできてしまいますね。花の色は白から青、そして赤く変わっていくので、七変化とも言われます。土壌の酸性度によって色が違うそうですが、隣り合わせに様々な色の花をつけてくれることもままありますので、難しいことは考えずに、短い季節の小刻みな変化を素直に楽しむのがよいでしょう。ただ、この花はあまり香りを発しないことと、花や葉そのものに毒性があり、食べたりすると中毒症状として吐き気やめまいをするそうです。室内で切花として楽しむのはよいですが、お料理の飾りなどにするときは注意をしましょう。
◆ ラベンダーの香り
紫陽花が日本の梅雨のように多少湿気がありながら、ある程度の日当たりや排水がよい肥沃な土壌を好むのに対し、ラベンダーは日本の高温多湿な環境にはあまり向かず、多少乾燥気味の環境を好みます。寒さにも強いので、日本では梅雨の短い北海道の富良野のラベンダーが見事です。そんな北海道とはいえ、あれほどのラベンダー畑を作り上げるには大変な苦労があったそうですが、今の富良野では本当に見渡す限りのラベンダーを楽しむことができます。開花の中心期は7月ですので、是非訪れてみてはいかがでしょうか。
ラベンダーは、紫陽花と違い、香りとその薬効を十分に楽しむことができる花です。生の花の香りはもちろん、ドライフラワーにしたり、蒸留された精油を使ったり、様々な楽しみ方ができます。フレッシュでありながら草と土の香りもほんのり混じったラベンダーの香りは、万人に好かれるものでしょう。この香りは、気持ちを落ち着かせてくれるので、安眠のお供として有名ですが、それ以外にも傷痕をきれいにしたり、痛みを和らげたり、筋肉のこりをほぐしたり、とまるで万能薬のように活躍してくれます。ラベンダーの語源は、ラテン語の「洗う」ということばから名付けられましたが、その洗うは「傷口を洗う」用途であったことも、その作用を信じさせてくれそうな逸話です。ラベンダーは紫陽花と違い、非常に安全な植物でもあります。色に香りに、様々に楽しみましょう。
紫陽花やラベンダーの紫の花を室内に飾って、神秘的な色に心を預けてみるのも、この季節を楽しむひとつのヒントになるのではないでしょうか。