認知症の治療では、薬物治療に加えて、非薬物治療も注目されています。右脳の活性化が、認知症の進行を遅らせる効果があるということで、さまざまなアーティスティックなアプローチがあるようです。音楽、ダンス、アート、などなど。アロマもアート的な側面をクローズアップすると、そのひとつ、とも言えるでしょう。
5月から始まる「脳の健康連続講座」で、8月に行われる第2回のメインは、「臨床美術」の体験です。その準備のために、昨日、駿河台の芸術造形研究所さんで体験説明会があったので参加してきました。
アートセラピーはさまざまな方法がありますが、多くはカウンセリング的な側面を持ったり、作品を解釈・解説したりするもののようです。この「臨床美術・クリニカルアート」は、単に絵を描いたり粘土などで造形を楽しむことだけで、脳を活性化させ、心を癒す、という、美術が本来持っている力を社会に役立てる、という目的で完成された手法です。そしてそれを提供するのは「臨床美術士・クリニカルアーティスト」と呼ばれる、セラピスト、カウンセラーではなく、真のアーティストであることが、それらと大きく違います。
自分たちの美術の才能をなんとか社会に役立てる方法はないのか、という思いのアーティストが、認知症は右脳を刺激することで、悪化を防いだり、予防の効果がある、ということに着目して、病院で活動を始めたのがきっかけだそうです。
講座に参加する人は、患者さんやその家族の方たちで、多くが「絵は苦手で・・・」「美術嫌いでした」という人だそうですが、月3回、2時間ずつ臨床美術士さんにファシリテートしてもらいながら作品に表現を始めると、みなやみつきになって、楽しんでしまうそうです。認知症の方たちのグループでは、認知症が進まずに維持できる人が6割以上、考えられないことですが、改善が見える方も16%くらいいるとのこと。それでいけば悪化(というか、想定どおりの変化ですが)をする方も2割程度はいるわけですが、それでも、硬い表情の方が笑顔になったり、最初何もしなかった人が積極的に参加したり、などは、認知症の症状テストだけではわからないポジティブな効果があります。
臨床美術士の養成講座は、5級から1級まで。5級はパステルを使って「美術が苦手」意識を変えてくれるので、美術・図工からっきし、の私でも受けられそうですが、4級からは水彩、アクリルなどでの幅広い表現を習得し、合わせて認知症の患者さんには病院で、子供向けに学校などで現場実習もあり、相当厳しいようです。昨日、「臨床美術が楽しかった」とツイッターに書いたら、何人かの方にコメントをいただきましたが、実際学ばれているかたから、「講座は大変、楽しいなんていえない」というものがありました。私はそれを聞いて、むしろ安心しました。私が昨日描いたのは、ほんとに子供がパステルをぬりたくったようなものです。自分自身は、オープンマインドになることや、自分のやりたいことの表現の時間として、とても良い体験ができました。でもそれは、ファシリテーターがファシリテート技術を駆使したからでなく、その方自身がきちんとアートを生み出して表現することのすばらしさを知っている、ということが最も重視されているからだ、と思います。その意味で、臨床美術の講座を受けることと、養成講座で美術士を目指すことには、相当な違いがあるのでしょう。
「認知症連続講座」の8月には、この臨床美術の講座体験に多くの時間を割きます。導く側ではなく描く側です。美術が得意な人も、そうでない人も、また医療や何らかのセラピーに関わる人も患者さんやその家族も、どなたがどの立場でいらしても、自分の立場と、その反対側の立場両方を理解できる場になると思います。8月は、このように体験が中心なので、参加募集数が限られます。5月の講座参加の方は優先予約になりますので、是非続けていらっしゃれるとよいでしょう。
最近出合ったものに、ダンスセラピーがあります。これは臨床美術が絵や造形を媒介にした表現であるのに対し、踊りによってからだを媒介にした表現です。この5月28日~30日には、その世界の第一人者であるパトリシア・マルテーロがイギリスから来日します。これもプロ中のプロにナビゲートしてもらえる点が、受ける意味を大きくしてくれるのではないでしょうか。今回はじっくり取り組める会に加えて、短い時間で体験できるワークショップもあるようです。興味のある方はこちらをご覧ください。
トップの写真は、以前参加した「こねこねランド」での作品。カラー粘土を使った造形教室です。ちっちゃな粘土をこねてるだけで、無心になれた思い出があります。これも、右脳と手からの触覚を刺激してくれる芸術療法の一つですね。
これらに出会うと、自分が苦手、と封印してきたことがたくさんあって、ほんとうに悔やまれます。ますます年を重ねるこれから、技術の習得やうまさを目指すのではなく、もう一度表現としてのアートに近づいてみたい、と思います。