バラは言わずと知れた「花の女王」。ギリシャの女神アプロディーテが海の泡から誕生したとき、天から降って生まれ出た、という花にふさわしいこの名は、紀元前600年頃に詩人サッフォーが唱えたとも言われています。それほど、古くから人びとに愛されてきた花で、もともと一重の5枚の花びらを持っていましたが、今では品種改良によって花弁が幾重にも巻いたものが多種作られ、その数は今では2万種を超えているそうです。
そして花の女王・バラは、もちろん香りの女王でもあるでしょう。古くはクレオパトラが愛し、マルクス・アントニウスを誘惑するための饗宴では、床になんと40cmも花びらを敷き詰めた、という逸話が残っています。ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌのバラ好きも有名で、250種ものバラを蒐集し、また画家に図鑑を残させるなど、後世の研究、品種改良の礎となる功績も良く知られたことです。その後もその香りは常に多くの女性を魅了し、現代の香水でも、バラの香りがベースで作られているものは挙げるにことかきません。
◆ バラの香りはどこから?
意外に身近に嗅ぐことが多いように思うバラの香りですが、買ってきた切花は匂いますか?またこの季節ご近所で咲いているバラの香りは、風に乗って流れてきていますか?知っているようで、実際にバラを嗅いだのは、ずいぶん前という方も多いのではないでしょうか。注意深く感じてみると、バラの花は咲きたてが最も香り高く、同じ品種、同じ苗から咲いても、その年の土壌や日照、苗の年齢などで微妙に違いがあります。切花で匂いがしないものが多いのは、その品種の香りが薄いのではなく、採取されて買われるまでに時間がたっているからかもしれません。バラ園に行っても、日本のバラ園と、イギリスのキューガーデンでは、香りの立ち方が違います。キューガーデンではバラ園の入り口手前で、既にむせ返るような甘い香りが漂ってきますが、日本では花に鼻を近づけて嗅がないと香りを感じないこともあり、これはどうも、この土壌や気候の違いが大きいようです。
香水のもとにもなるバラ精油は、花びらを動物脂に乗せて香りを移す伝統的な手法から、今では有機溶剤に浸出させて取り出す方法も多用されるようになり短い時間で抽出できるようになりましたが、それでも花びら4-5tから約1ℓしかとれません。花の数で言えば、咲きたてのバラ30個からたった1滴しかとれない、という貴重なものです。せっかくですから、ご近所のお庭から外に飛び出しているバラがあったら、顔を近づけて香りを胸いっぱい吸い込んでみませんか?
◆ バラと楽しむ暮らし
このバラの花びらの恵み、「香り」は、女性の幸福感を増し、ホルモンの働きを整えてくれる、すばらしい作用を持っています。またローズヒップと呼ばれる果実部分は、「ビタミンCのバクダン」という異名を持つ栄養豊富なもので、お茶やジャムにして摂ることができます。毎日の生活に取り入れるには、精油をアロマポットで焚くなどが簡単ですが、バラの「フローラルウォーター(精油を抽出した際に分離して残る水)」であれば、精油や香水よりも安価で、室内や衣服にスプレーするだけでよいので、いろいろな場所で楽しめるでしょう。また入浴の時には、カレースプーン2杯の粗塩に、バラ精油を2滴混ぜたバスソルトを湯船に溶かして入れば、上に書いたような効果に加えて、さらに“女王様気分”が味わえるかもしれません。バラの花びらを湯船に浮かべるのも贅沢な楽しみですが、花びらの色素が浴槽につくと落ちにくいことがありますので、注意しましょう。
※バラの精油は、妊娠中の使用は危険ですのでおやめください。
◆ バラと相性のいい香り
他の花や植物にも、バラに似た香りがあります。多くは「ローズ」という名がつけられています。パルマローザはイネ科の植物で葉にローズ様の香りがあります。日本でも鉢植えなどでおなじみのローズゼラニウムも、バラをさらに甘くかわいらしくした香りがします。アマゾンで採取されるクスノキ科のローズウッドは、木部がバラ様の香りを発する、優しい木です。今では乱獲による伐採制限があり、その香りを楽しむ機会が少なくなっているようですが、もし試せる機会があればこれもバラとブレンドするのになじみがよい香りですので、お試しになってはいかがでしょう。住まいの中をバラの香りで満たすのも、楽しい季節ですね。